山下甫斎は塗師と蒔絵で才能を発揮|職人に近い立場で作品づくり
山下甫斎は、茶道具を中心に多くの名品を生み出している石川県出身の作家です。塗師と蒔絵のいずれでも才能に恵まれ、作品づくりに生かされています。今回は山下甫斎の代表作としても知られる棗について解説を交えながら、甫斎の作品に見られる魅力などをご紹介します。
塗師の家に生まれた甫斎
山下甫斎は、1944年に石川県で生まれた職人気質の作家です。とくに展覧会への出品や個展の開催は見られず、作家というより職人に近い立場で作品づくりに尽力しているといわれています。
生まれは、塗師として名の知られていた山下家です。すでに父の山下清峰が、この分野で高い評価を得ていました。甫斎は幼い頃から優れた父に漆芸技法を教わり、同じ塗師として実力を磨きます。
同時に蒔絵でも、優れた才能を発揮しました。その繊細さなどが求められる高度な技術は父から学んだわけでなく、独自に研究を重ねるなかで習得したといわれています。
甫斎は、1978年に2代目を襲名しました。茶道具を中心に作品づくりを進め、美しい仕上がりは多くの茶人に愛されています。
甫斎が手がけた棗とは
山下甫斎の代表作としては、よく棗が挙げられます。棗とは、茶道で抹茶を入れるのに使われる容器です。
名前の由来は、容器の形が植物のナツメの実に似ているためといわれています。表面の装飾は漆塗りが一般的であり、模様は無地から絵巻物がモチーフになった図柄まで見られます。
棗の種類は、まず大きさで分けられ基本的には大棗、中棗、小棗の三つです。これらと異なり全体が平たい形状であれば平棗、円筒状の場合には中次形と呼ばれます。
また塗り方を基準にすると、黒塗や溜塗が見られます。黒塗りは黒漆で仕上げた漆器であり、初期の棗の主流でした。その次に登場した溜塗は下地に朱色を塗り、半透明の透き漆で仕上げます。
さらに装飾方法から分類することもあり、いまの棗はバリエーションが豊富です。
伝統を守る現代風の作品が魅力
山下甫斎の作品づくりは、伝統を守りながら現代風の雰囲気も取り入れるところが大きな魅力です。
棗に限らず茶道具をつくるときなどは、伝統的な決まりから逸脱しないことを心がけています。そのうえで、自分なりに斬新なアイデアを大胆に加味していきます。
これらの特徴が魅力になっている代表作は、「雲龍蒔絵大棗」や「波車蒔絵大棗」です。いずれも、塗師としての実力と蒔絵の才能が生かされ高評価につながりました。
いまも、職人的な立場を大切にする作品づくりは続きます。その独特な姿勢を忘れずに生み出された山下甫斎の茶道具は、高額での買取を期待できるでしょう。