腕時計の電池交換を行う場合、まずは工具を準備しなければなりません。
電池交換とはいえ時計を一部分解することになりますので、専用の工具が必要で正しい使い方をしなければ時計を傷つけてしまうことにもつながりかねません。
工具にもたくさんの種類があり、一般用から時計職人さんも使用するプロ用までさまざまです。
そんな腕時計の電池交換に必要な工具と、その用途について詳しくご紹介いたします。
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裏蓋の開閉に必要な工具・道具
腕時計の電池交換をするには、まず時計本体の裏蓋を開閉しなければなりません。
裏蓋にはいくつか種類がありますが、それぞれの裏蓋を開閉するために必要な工具をご紹介します。
オープナー
オープナーは防水機能付きの腕時計に多い、ネジ状になっているスクリュータイプの裏蓋を開ける際に使用する工具です。
時計のサイズによって工具の幅を調整し、裏蓋の溝になっている部分にオープナーの突起部をセットした状態で回転させるように使用します。
こじあけ
防水機能がついていない腕時計の裏蓋は、この「こじあけ」と呼ばれる工具で開けることになります。
裏蓋の脇にある溝にこじあけの先端を差し込み、テコの原理で開けていきます。
この溝の幅が時計によってさまざまですので、こじあけ工具も先端の厚みが違うものを複数用意しておくのが理想的でしょう。
先端の厚みや形状の違い、大きさの違いなど、こじあけには多くの種類が存在しますが、いずれも数百円から数千円で販売されています。
自分の時計の電池交換程度なら多少使いにくくても大きな問題ではありませんが、毎日多くの時計を扱う職人さんにとっては重要な工具ですので、自分に合った形状のものを複数そろえています。
精密ドライバー
腕時計の種類によっては、裏蓋を外すのにドライバーが必要な場合があります。
一般用に販売されている10本セットで数千円のもので十分活用できますが、注意するのはドライバーの先端部が磁石になっているタイプかどうかです。
先端部が磁石になっているとネジがドライバーから外れにくくなりますので、家具などのネジを締めるには非常に便利なのですが、腕時計に使う場合は先端が磁石のドライバーを使ってしまいますと、磁気帯びして時刻が狂ってしまう可能性があります。
特別高価なものを使用する必要もありませんが、先端が磁石になっていないタイプのものを使うのが腕時計修理では鉄則です。
裏蓋閉め機
裏蓋閉め機は、その名のとおり開けた裏蓋を閉めるための工具です。
特にこじあけを使って外した裏蓋は指の力だけでは閉められないことが多くなりますので、意外と裏蓋閉め機は活躍することになります。
裏蓋閉め機を使えば、硬くて指で閉めることが難しいような裏蓋でも簡単に閉めることができますので、こじあけタイプの裏蓋を外すときには用意しておくと安心な工具です。
プロ用の高価なものから、一般用の数千円程度で購入できるものまで多くの種類が存在します。
裏蓋を開けてからの作業で必要な工具
裏蓋を開けて電池交換を行い、裏蓋を閉めるまでの作業にも次のような工具が必要となります。
ピンセット
ピンセットは、電池やネジをつかむ際に使用します。
電池をつかむ用には電気を通さない樹脂製や、プラスチック製のピンセットを使うことが一般的です。
ピンセットは日常生活用で使っている人も多いかもしれませんが、時計修理専用に作られた高級なピンセットも存在します。
普通のピンセットであれば安いものだと100円程度でも購入できますが、プロが使うような高級なものだと1本数千円にもなります。
電池交換をする程度であれば数百円のものでも十分活躍してくれますが、あまり安いものですとつまんだ際に先端がずれてしまうものもありますので、最低限の品質はクリアしているものが安心です。
時計職人さんたちは、こういった小さな工具にもこだわりを持って作業しています。
チリ吹き
裏蓋を外した時計内部のホコリなどを取り除くために、チリ吹きを使います。
一般の人が分解をするとつい息を吹きかけてしまいがちですが、酸化して金属部がさびてしまう恐れがあるためプロは必ずチリ吹きを使っています。
さまざまな種類のチリ吹きがありますが、どんなものでも特に問題はありません。
シリコングリスと塗布器
防水機能付き腕時計の電池交換をする際には、シリコングリスと塗布器も必要となります。
裏蓋を開けるとパッキンがあり、そこにシリコングリスを塗らないと防水効果が発揮されないからです。
電池交換などで防水時計の裏蓋を開けたときは、塗布器を使ってシリコングリスを塗ることが一般的にセットとして行われています。
日常生活防水であればこの作業をするだけでも、性能を保持することが可能です。
電池交換作業をサポートする工具・道具
電池交換作業をより安全に効率良く行うために、サポートしてくれる工具も存在します。
次のような工具を使用することで、作業はよりはかどることになります。
保持器
保持器とは腕時計を固定する道具で、安定した状態で作業をするのに欠かせないものです。
保持器を使わず作業をすると不安定なため、工具が滑って裏蓋を開ける際などに時計に傷をつけてしまう恐れがあります。
クッション
電池交換作業中は時計の盤面を下にして作業することになるため、盤面のガラスを傷から守るためのクッションもあると良いアイテムです。
必ず必要というものではありませんが、クッションを敷かない状態で作業をするとどうしても盤面を傷つけてしまいやすいので、そういったリスクを回避するためにもクッションは使用した方が安心です。
柔らかくて毛羽立たない材質のクッションが、時計修理には向いています。
腕時計専用ハンマー
裏蓋が硬くてなかなか開けられないときなどに、活躍するのがハンマーです。
こじあけを差し込めないときは、ハンマーでこじ開けの後ろを軽く叩きますと簡単に差し込むことができるようになります。
腕時計用のハンマーは、大工さんが使うような一般的な金槌とは少し作りが異なります。
腕時計用ハンマーのヘッドの部分は、片方が金属でもう片方が樹脂で構成されているものが現代では主流です。
裏蓋外しでこじあけを叩くときなどは金属側で叩いても大丈夫ですが、ベルト調整などで時計に直接ハンマーが当たるようなときは、樹脂側で叩くことで傷がつくことを避けられます。
大工用ハンマーと比べますと、柄の長さは同じくらいですがヘッドの大きさが全く異なるのが特徴です。
腕時計用に使うハンマーは精密機械が相手の繊細な作業となりますので、ヘッドが軽く小さな作りになっています。
腕時計の修理には、力強さよりも繊細な動きに対応できることの方が重要ですので、このような作りになっているのです。
格安工具の品質
ここまで紹介してきた工具をすべてそろえていますと、ある程度の金額になってしまいます。
一つひとつにこだわって高価な工具を購入していますと、専門店で行う電池交換数回分の金額になってしまうことも考えられます。
基本的に腕時計の電池交換は、リスクを考えると時計修理専門店に依頼することがベストではありますが、趣味で自分の時計の電池交換をしたい程度であれば、最低限の品質をクリアしている工具で十分です。
そのくらいであれば高価な工具でも安価な工具でも、特別な品質差を感じることは少ないでしょう。
最近では、100円均一のお店でも腕時計の修理工具セットが販売されています。
そういった格安商品でも、工具によっては強度が足りなかったりすることもありますが、基本的には問題なく活用できます。
しかし防水機能を低下させたくない腕時計や、傷をつけたくない大切な腕時計を、自分で電池交換することはお勧めできません。
技術や経験面でプロの時計職人さんに任せることが何より安心ですし、防水テストも自分で行うことは難しいのが現実です。
基本的には腕時計の電池交換は、時計修理専門店に依頼するのが良いでしょう。
まとめ
腕時計の電池交換には、意外と多くの工具が必要となります。時計職人ともなりますと、さらに多くの細かい工具も使用して作業をしています。
頻繁に電池交換をする場合を除けば、これだけの工具をすべてそろえて自分で行うよりも専門店に依頼する方が、経済的にも安く済む可能性が高いでしょう。
そして何よりも工具をそろえたところで、きちんと使いこなす技術がなければ意味がありませんので、そういった意味でも腕時計の電池交換は時計修理専門店に依頼することが賢明だといえます。