腕時計の防水機能は、防水テストを行うことにより保たれます。
すべての防水時計に、高度な防水テストが必要というわけではありませんが、高性能な防水時計ほど防水テストは必須となってきます。
しかし防水テストはどこの修理店でも行える作業ではなく、ふだん一般の人がその作業を目にすることは、ほとんどありません。
そこで、どういった機材を使ってどのような検査が行われているのかを、紹介させていただきます。
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防水テストができない修理店もある
腕時計の防水テストは、どこの修理店でも対応してもらえるとは限りません。
ホームセンターや小さな時計屋さんなど、簡単な電池交換のサービスを行っている程度のお店はもちろん、時計修理専門店でも多くの店舗で防水テストには対応していないのが現実です。
防水テストには専用の機材が必要で、さらに故障につながるリスクもあることがその原因だと考えられます。
防水テストを行いたいのであれば、メーカーに依頼するか対応している時計修理専門店を探すこととなるでしょう。
防水テストに使われる機材について
防水テストには専用の機材が必要ですが、用途別に種類がわかれています。
防水試験機と呼ばれるテスト機材は、時計の大きさや気圧の大きさによって使い分けることになります。そのため、防水テストを行っている修理店では、基本的に数種類の試験機が準備されていることがほとんどです。
1個ずつ検査するタイプのものから、生産性の高い複数個同時に検査可能な試験機まで存在し、ベルト付きのままやベルトなしでの検査などさまざまなケースに対応可能です。
乾式防水試験機
乾式防水試験機とは、水を使わず防水機能を検査することができるテスト機材です。
検査する腕時計の性能に合わせて気圧を設定し、水の代わりに空気圧を利用し検査します。
気圧の変化をマイクロメーターレベルで計測して、気密漏れがあるかどうかを調べます。
300m防水の時計までが、この乾式防水試験機でテスト可能な範囲です。
湿式防水試験機
湿式防水試験機は、乾式防水試験機での検査結果で既定の防水基準を満たせなかった場合や、300m防水以上の防水時計の検査に使用する機材です。
こちらは乾式とは違い、実際に水を使用して行う検査です。試験機内で気圧を変化させることによって、気密漏れが起こっている部位から気泡を発生させ、気密不良部位を特定します。
この湿式防水試験機でテストを行うときは、万が一のトラブルを回避するため、時計内部のムーブメントを事前に取り外してから検査します。
防水テストの手順について
防水テストに使用する機材をご紹介しましたが、これらの機材を使用してどのような手順でテストを行っているのでしょうか。
防水テストで主に使用することになる乾式防水試験機を例に、手順をご紹介します。
1. 試験機へのセッティング
まずは防水テストを行う腕時計を、検査機へセッティングします。
リューズがねじ込み式の時計の場合は、この時点で必ずねじ込んでおきましょう。
基本的に正しい位置へ時計を設置するだけですので、特に難しい作業ではありません。
2. 蓋を閉めて検査準備
時計の設置が終わったら、カプセル型の蓋を閉めて密閉します。
きちんと蓋がロックできているかの確認が、大切な作業となります。
3. 計測数値を設定する
テストを行う時計の防水圧数値を設定して、検査をスタートさせます。
実際は空気圧での検査となりますので、防水機能に問題があった場合でも水が時計内部に侵入するということがありませんので、安心です。
4. 終了
テストが終了しますと、防水性能に問題がなければOKランプが点灯します。
もし気密不良部位があり、十分な性能がないと判断された場合はNGランプが点灯します。
この場合は湿式防水試験機を使用して再検査を行い、不良部位を特定して部品交換などの修理を行うことになります。
メーカーでの電池交換と防水テスト
メーカーで電池交換を行いますと、単なる電池交換だけでなくパッキンの交換や防水テストが、セットで行われることになります。
電池交換は基本的に数年に一度のことですので、セットでパッキン交換や防水テストを行ってもらえることは嬉しいことだと思いがちですが、実は良いことだけとも限らないので注意が必要です。
メーカーに電池交換を依頼しますと、このように頼んでもいない作業が含まれてしまいますが、これは無償のサービスではなく電池交換費用に料金が含まれているのです。
つまり時計修理店では数千円で済むような単純な電池交換が、メーカーに依頼した場合そのほかの作業がセットになるため、高額になってしまいます。
また、メーカーに預けた場合、電池交換後に一定期間の動作確認を行うことになるため、どうしても預ける期間が長くなってしまいます。
長期間預けたくない場合や、単純に電池交換をしてもらいたいだけであれば、メーカーではなく時計修理専門店に依頼する方が賢明です。
防水時計を着用して、素潜りや水泳などを日常的に行っているような場合を除けば、基本的にパッキン交換や防水テストは毎回行う必要はないでしょう。
ただパッキンが消耗品であることは事実ですので、2~3回に一度くらいは電池交換と一緒に、パッキン交換と防水テストを行うことをお勧めします。
防水テストのリスク
防水テストには少なからず、破損のリスクが伴うことも知っておきたいことです。
空気圧による防水テストでは、時計の外部から強い圧力を加えてテストを行います。時計内部の気圧よりも強い圧力を受けるため、時計は少し変形しつつもその形を保ちます。
変形した形を保ち続けられれば正常な防水性能があると認められますが、その変形しているときに時計が耐えきれず、破損してしまうケースがあります。
部品の劣化などの原因が考えられますが、内部から爆発を起こすような破損ですので、時計のガラスが割れてしまったり、文字盤が粉々になることもあります。
まれではありますが、きちんとした手順で検査を行ったとしてもこのような破損のリスクがあることも、多くの修理店で防水テストを行っていない理由だといえるでしょう。
性能よりも低い圧力でのテスト
防水テストは時計が耐えられる最高気圧でのテストだけでなく、低い圧力でのテストも行います。
高い圧力を加えますと、パッキンがしっかり押し付けられて防水性を保つことができても、低い圧力だとパッキンの押し付けが弱く、防水性を保つことができないことがあるからです。
本来防水機能というものは、例えば10気圧防水の場合、10気圧までであれば何気圧でも耐えられなければなりません。
しかし10気圧の環境では正常な性能を発揮できても、1気圧ですと性能が発揮できないことも有り得るというのが、防水機能の難しいところでもあります。
単純に高い圧力に耐えられることが、防水機能のすべてではないということです。
むしろ普段使いの腕時計であれば強い圧力を受けるケースは少なく、低い圧力での防水性能の方が、実際に求められる性能だと考えることもできるでしょう。
まとめ
防水テストは防水試験機があれば、作業自体は難しいものではありません。
しかし簡単な作業の中にもリスクが隠れており、シンプルだからこその奥深さも存在します。
専門知識をもった人物が正しい方法で行うことが大切であり、どんなお店でも対応できるわけではないのでしょう。
ふだんの生活の中で使用する程度であれば、あまり防水性能を意識することはないかもしれませんが、防水機能が必須となる使い方をしている人は、しっかりとした時計修理専門店やメーカーに依頼して、防水テストを行う必要があるでしょう。