水彩画の魅力は、重々しく迫ってくる重厚感や威圧感のある油絵と違い、透きとおったみずみずしさと透明感・清涼感ある爽やかさです。
水彩画の透明感は、小学校で習う水彩画の絵の具とは異なる「透明水彩絵の具」から生まれています。透明絵の具は、重ね塗りしても下の色が透けて見えます。この特徴をいかして描かれた水彩画は、油絵よりも日本人の心を捉えます。
水彩画について骨董価値の高い作品やその特徴、歴史などを紹介します。
水彩画とは
水彩画で使用される、絵の具の種類
水彩画を描く絵の具は、水で溶いて使用する絵の具であることから水彩画と呼ばれます。
絵の具には「不透明水彩絵の具」と「透明水彩絵の具」の2種類があります。
不透明水彩
1種類は「不透明水彩絵の具」で、塗り重ねたとき下の色が透けて見えない絵の具です。
下の絵の具が透けて見えないので油絵ほどではありませんが、重ね塗りして重厚感のある絵を描けます。絵の具を水で薄く溶くことで色が混じりあいますが、下の絵の具が透きとおって色が変わるわけではありません。
透明水彩
もう1種類は「透明水彩絵の具」で塗り重ねても下の色が透きとおって見え、発色が非常に美しい絵の具です。
下の色が透けて見えますので、上に塗った色と重なりあった部分は別の色になります。
例えば、下の色が青色でその上に黄色を重ねますと、重なった部分は緑色になります。緑色は混じりあった結果ではなく、下の色が透けて上の色と重なりあったためです。
この色の出し方は「重色」といいます。
パレット上で青色と黄色を混ぜて緑色にする色の出し方を「混色」といいますが、同じ緑色でも見え方は異なります。「重色」をしても色に濁りが生じません。一方、「混色」するとその色は重い色調になります。
透明水彩絵の具での描き方
透明水彩絵の具では、色を塗り重ねることで色が変わります。そのため、絵を描くときには色がどう変わるかの知識を持って、塗る色の順番をあらかじめ考慮して計画的に描きませんと、イメージの色とは違った作品になります。
また、白色は基本的に使いません。白色は、水彩画を描く紙の白色を利用します。
技法として、絵の具を溶く水の量を調整した、「ぼかし」「にじみ」「塗りむら」「濃淡」などを使って多彩な表現をします。
水彩画の魅力・特徴
絵画で水彩画という場合は、一般的に透明水彩絵の具で描かれた絵画を意味し、水彩画の専門作家は透明水彩絵の具で描きます。
不透明水彩絵の具は、透明水彩絵の具に比べ長期保存ができません。
透明水彩絵の具の特徴は透明度の高い色、淡い色、明るい色が出せることです。
透明水彩絵の具で描かれた水彩画は、透きとおった透明感から生まれるみずみずしさと清涼感があります。また、「ぼかし」や「にじみ」などの技法で描かれることで、絵に温かみのある深い味わいが表現できる特徴もあります。
水彩画では、例えば春らしい淡くて暖かい空気の雰囲気や、その空気にかすんだ風景を表すためのぼかした色合いによる表現が可能です。
一方で、深い海の鮮やかで透きとおった青色など、透明水彩絵の具の特性をいかして多彩な表現が可能です。
この使い分けは、絵の具を溶かす水の量で調整でき、水を少なくすることで鮮やかでシャープでクリアな絵も、淡くて繊細で柔らかく温かみのある絵も可能です。
水性絵の具を使って描く、水彩画以外の絵画
水彩画は水性絵の具を使って描きますが、水彩画以外にも水で溶いて使う絵の具で描く絵画があります。日本画、水墨画、アクリル画、テンペラ画、フレスコ画です。
水彩画の歴史
水彩画の起源
現代でいう水彩画ではなく、水で溶いた絵の具で描く絵画も水彩画としますと歴史は古く、今から約1万4500年前の旧石器時代のヨーロッパは、スペインの世界遺産アルタミラの洞窟に、クロマニヨン人によって描かれた絵までさかのぼります。アルタミラの洞窟画は、芸術性の高い絵と評価されています。
しかし、文字を持たなかった古代の人々は芸術としての絵を描きたいのではなく、厳しい環境を生き抜くために絵を描かねばならなかったと推測されます。結果として、芸術性の高い絵画が残されました。
色が付けられる顔料をたまたま見つけて、身近にある水で薄めて絵が描き始められました。
なお、アルタミラの洞窟画は、日の光が入らず真っ暗で、人が1人やっと入れるかどうかくらいの狭い中に描かれています。このことから多くの人に見せるためではなく「狩猟を成功することを祈って」、あるいは「動物が信仰の対象であったから」といった理由で描かれたのではないかと推測されています。
水で溶く絵の具で描く、水彩画の発展
洞窟壁画の後、紀元前数千年のころに水で溶いた絵の具を用いて、フレスコ画が描かれるようになります。
次に同じ紀元前数千年の古代エジプト時代からギリシャ、ローマ時代のころに、テンペラ画の手法で描かれていたという説もありますが、はっきりしません。
テンペラ画が描かれた時期がはっきりするのは、6世紀のころからです。同じころ中国では水墨画が描かれるようになります。日本では同じ水彩画の大和絵が、9世紀ころから描かれるようになります。
現代と同じ水彩画の発展
現代水彩画と通じる水彩画は、紙を作る製紙法の技術と関連し、紙が普及するのは16世紀から17世紀です。このころから、ヨーロッパで水彩画が、現代と同じ透明水彩絵の具で描かれるようになります。
最初の水彩画の有名な作家として、ドイツのアルブレヒト・デューラーが現れます。なお、このころは透明水彩絵の具に、不透明水彩絵の具が併用されていました。
その後、多くの作家が水彩画を描くようになり、18世紀になるとフランスの王立絵画・彫刻アカデミーが、水彩画を独立のジャンルとして認めました。
そして18世紀の後半になりますと、イギリスにウィリアム・ターナーが現れ、現代でも利用されている水彩画の技法をほぼすべて完成させ、現代に至ります。
日本では、19世紀のころの幕末に油絵とほぼ同時に水彩画は伝えられ、明治時代に大いに流行しました。
その後、大正2年(1913年)に当時の有力な水彩画作家が結集して日本水彩画会が設立され、今日までその活動が100年以上続き、多くの水彩画作家を輩出しています。
骨董価値のある水彩画の特徴・条件
水彩画に特徴的な骨董価値
骨董価値のある水彩画は、特に水彩画に限りますと油絵と違って比較的誰にでも描けますので、有名作家ではなく、有名人が趣味で描いた作品に高い価値が付くことがあります。
1つの例として、ヒトラーが描いた絵画が数百万円で落札されました。芸術的な価値は高くありませんが、話題性で高い価値がつきます。
油絵などの他の絵画でも同様の価値がつきますが、水彩画がより手軽に描けるため、作品が多く存在します。
骨董価値のある水彩画の特徴・条件
そのほかの骨董価値のある水彩画の条件は、油彩画など他の絵画作品と同様です。
- 有名な作家、人気のテーマの作品、希少価値のある作品であること
- 保存状態がよいこと
- 修復は専門家によって行われていること
- 鑑定証があること などです。
ただし、古い作品の場合はかえって汚れや傷が、高い価値を生みだしていることがあります。
反対に、希少性で価値があれば修復することで、修復費用以上の価値になることもあります。価値が分からない場合は、汚れや傷はそのままで鑑定をしてもらう方がよい場合があります。
有名な水彩画
有名な水彩画の作家と作品を紹介します。
デューラーの作品
- 野うさぎ
- 芝草
- アルコの景観
- 青いローラー・カナリアの翼
- 百合 など
ターナーの作品
- ヴェネツィア、月の出
- ヴェネツィアに向かって
- ビギニング(はじまり):黄色の上にかかった赤い雲
- ノラム城、日の出:色彩の秀作
- 旧ウェルッシュ橋、シュロップシャー州シュルーズべリー
- サン・ゴタール峠の下り道 など
ガーティンの作品
- モルヘス橋
- エクセター大聖堂
- ピーターバラ大聖堂の西正面 など
ブレイクの作品
- 眠るダンカン王に近づくマクベス夫人
- 巨大な赤い龍と太陽の衣をまとった女
- 日の老いたる者 など
パーマーの作品
- カリュプソの島、オデュッセウスの船出 など
セザンヌ(油絵と同じ名前の作品があります)
- フラワーポット
- 庭師
- 赤いチョッキの少年
- サント=ヴィクトワール山 など
ゴーギャン(油絵と同じ名前の作品があります)
- 異国のエヴァ
- 神秘の水
- 美の女王
- 花瓶 など
いわさきちひろ
- ぶどうを持つ少女
- こげ茶色の帽子の少女
- 窓辺の小鳥と少女
- なべをかかえる少年と少女 など
岸田 劉生(きしだ りゅうせい)の作品
- 男之像
- 照子像
- 村娘之図
- 麗子六歳之像 など