陶板画

陶板画は陶磁器を制作する技法で、薄く平らな陶磁器の板に絵を描いて制作されます。太陽光線による劣化の影響がほとんどなく、いつまでも美しいという特徴があります。
過去の名画が、色、大きさをそっくりに複製された作品や、陶板画作家が絵付けして制作した作品があります。陶磁器の長い歴史に比べると陶板画は新しく、18世紀中ごろのヨーロッパで制作が始まりました。
陶板画について骨董価値の高い作品やその特徴、歴史などを紹介します。

陶板画とは

陶板画の特徴・魅力

陶板画は、紙や布などの代わりに板状の陶磁器に絵付けして、陶磁器を制作する技法で描かれた絵画のことです。太陽光線による劣化がほとんどなく色あせすることもなく、汚れや虫食いも湿気による悪影響もなく、いつまでも制作時の美しさが保たれる特徴・魅力があります。

陶板画の制作工程

名画を複写する陶板画は、以下の工程で制作されます。

1.下地の白磁の陶板制作

油絵の場合、原画の写真データから原画の絵の具による盛り上がりを再現するために、焼き物用の絵の具を使い窯に入れて焼き固めて再現します。

2.原画を色分解し、4色の転写紙の作成

原画の色はシアン、マゼンタ、イエロー、ブラックの4色に色分解が行われ、4色・4種類の転写紙が制作されます。

3.転写紙を陶板に転写

4枚の転写紙がずれないように、陶板に転写されます。

4.焼成

窯に入れて焼き固められます。1回で原画に近い色が出ませんので、原画の色に近づくように3と4の工程が数回繰り返されます。

5.レタッチ

さらに、筆使いや部分的な色の違いなどを、職人によって修正されます。

6.焼成し陶板画の完成

レタッチ後の陶板画は、再度窯に入れて焼き固められます。この工程もまた1回だけでなく、筆使いも含めて原画に近づくように5と6の工程が数回繰り返されます。良い陶板画は、全体で10数回にわたって焼成が繰り返されます。

なお、名画を複製しない陶板画は転写紙で絵を転写して描くのではなく、作家が陶板に直接専用の絵の具で描く絵付けを行います。そして、作家のイメージどおりの発色にするために名画の複製と同様に、レタッチと焼成が良い陶板画では10数回繰り返されます。

陶板画の描かれる種類と作品の価値

陶板画に描かれる絵は、大きく分けると過去の有名作家が描いた名画とオリジナルの絵の2種類があります。

芸術の世界では、複製品、特に署名や落款までも複製した作品は偽造品として評価され、その価値はほとんどありません。
陶板画では、過去の有名な絵画の作品が、原画の色、形、大きさなど忠実に複製されて多数制作されていますが、複製品でも高い評価が付いています。
特に有名な窯元で精巧に複製された作品は、高額なものでは数百万円を超える評価の作品があります。

陶板画に描かれている絵が複製であっても高い評価が付くのは、油絵や水彩画と同じ技法で複製するものではないこと、および陶磁器に絵付けして原画に限りなく近い複製画を作る技術が非常に高く難しいからです。そのため複製の陶板画であっても、複製ではないオリジナルの絵の陶板画の作品よりも高額な作品が多数あります。

では、複製の名画を複製した陶板画は、美術作品・芸術作品でしょうか?
名画を複製した陶板画が美術作品、または芸術作品であるか、ないかは骨董品として高額な金額で購入する人には気になるのではないかと思います。そこで次の項目で検討します。

名画を複製した陶板画は美術作品・芸術作品?

1.芸術の定義を陶板画に当てはめると、定義次第で芸術作品

芸術の定義にはさまざまあります。
その中の1つとして、三省堂の国語辞書には「美を創造・表現する活動(‐による作品)」と書かれています。
また、創造とは「初めてつくり出すこと」と書かれています。美術は、芸術の中の1分野ですから、同じ定義が当てはまります。

この定義によると、名画を複製した陶板画は芸術作品、美術作品には当てはまりません。
しかし、一方で小学館の国語辞書には「特定の材料・様式などによって美を追求・表現しようとする人間の活動。および、その所産」と書かれているので芸術作品、美術作品になり、陶板画は両方の可能性があります。

2.結論として、陶板画は芸術作品

絵画作品は同じ対象を描いても、作家の個性によって大きく異なる絵画作品になることを考えますと、複製した陶板画は創造性が欠けているので芸術性はありません。
しかし、一方で陶板画は絵付けして入りが焼き付けで変色することを緻密に考慮して、さらに十数回も色を塗り重ねて制作されます。一般的な磁器の絵付けと異なり、陶板画は絵画としての美が徹底的に追求されています。

したがって、名画を複製した陶板画は、絵画作品として見ると極めて芸術性の高い工芸品です。しかし、絵が描かれた絵画作品とは異なる作品として見ることもできます。そうすると、立派な芸術作品ということになります。絵画作品ではない美術作品・芸術作品といって、問題ないと考えられます。なお、陶板画に描かれた絵がオリジナルであれば、陶板画は絵画としての芸術作品です。

陶板画が鑑賞できる美術館

日本で陶板画の作品が鑑賞できる美術館を、2館紹介します。

1.大塚国際美術館

世界各国の名画を形、大きさを同じにして複製した陶板画が1000点以上も展示されています。壁画など、現地に行かなければ見られない絵画も複製されています。

所在地:徳島県鳴門市鳴門町土佐泊浦字福池65-1(鳴門公園内)

2.京都府立陶板名画の庭

モネの「睡蓮・朝」、鳥羽僧正の「鳥獣人物戯画」、ミケランジェロの「最後の審判」、レオナルド・ダビンチの「最後の晩餐」、張澤端の「清明上河図」、スーラの「ラ・グランド・ジャット島の日曜日の午後」、ルノアールの「テラスにて」、ゴッホの「糸杉と星の道」の8作品をほぼ原寸大に複製した陶板画が屋外に展示されている美術館です。

所在地:京都市左京区下鴨半木町

陶板画の歴史

陶板画の起源と技術水準

陶板画は、1763年にドイツ(当時のプロイセン)でプロイセンの王であった、フリードリヒ2世によって設立されたKPM(王立磁器製陶所)で制作されたといわれています。

当初は、油絵と同様に宗教がテーマの陶板画が主に制作されましたが、次第に宗教以外のテーマとして名画の複製や風俗画、美人画などが制作されます。その技術水準の高さは、例えば人物を描くときは髪の毛の1本1本までが手を抜くことなく細部まで描かれています。さらに肌の色は透き通るように、また肌が持つ柔らかな質感を無機質な陶板の上に見事に表現しています。その技術の高さは、陶板画を肉眼で見ることでより理解できます。

KPM(王立磁器製陶所)以外で、質の高い陶板画を制作する著名な窯元

陶磁器としては、KPM(王立磁器製陶所)よりも早く、プロイセンの支配下ではなかったドイツのザクセンでフリードリヒ・アウグスト強王の指示、援助でマイセン磁器がヨーロッパで最初の白磁の制作に成功します。
そして1710年に、ヨーロッパ初の硬質磁器の窯を誕生させます。その後、陶板画も制作されます。
また、1775年にデンマークのロイヤル コペンハーゲンが、デンマーク王室の援助で硬質磁器の制作に成功し、窯を開設して鮮やかなコバルトブルーが特徴の硬質磁器や陶板画の制作を始めます。

KPM(王立磁器製陶所)のあるベルリン、マイセン、ロイヤル コペンハーゲンのコペンハーゲン以外では、フランスのセーヴル窯が世界的に有名な陶板画の窯元です。
日本では、ノリタケ、鳴海製陶、大塚オーミ陶業などが陶板画を制作しています。

大塚オーミ陶業は、「陶板画が鑑賞できる美術館」で紹介している、大塚国際美術館の陶板画をすべて制作しています。
そのほかにも文化庁からの依頼で、奈良県明日香村で発掘された石室「キトラ古墳壁画」を高い複製の技術力で、発見当時の姿のまま残すために、陶板で複製していることでも知られています。

骨董価値のある陶板画の特徴・条件

骨董価値のある陶板画の条件

日本ではブランド志向が強いので、KPM(王立磁器製陶所)、マイセン、ロイヤル コペンハーゲン、セーブルなどの陶板画は高い価値が付きます。
次に、希少性やサイズ、人気のあるテーマが描かれている陶板画の人気がありますので、骨董価値も高くなります。

注意したい陶板画

KPM(王立磁器製陶所)は、人気のあるブランドです。しかし、このブランドは陶板画にKPMの刻印がされていてもKPM(王立磁器製陶所)で絵付けされた陶板画でない可能性があります。
というのは、磁器の平たい陶板を作ることにも難しい技術が必要なため、KPM(王立磁器製陶所)は、絵付けされていない陶板自体を絵付けの工房に提供していたからです。その場合、KPM(王立磁器製陶所)よりも絵付けの技術が劣っていることもあって、価値が落ちます。

有名な陶板画

作品な陶板画の作品を、ブランドごとに紹介します。

KPMベルリンの作品

  • 農家を訪れるルイーゼ王妃
  • マグダラのマリア
  • 聖母子像
  • ベアトリーチェ・チェンチの肖像
  • 皇妃マリー・ルイーズ など

ロイヤルコペンハーゲンの作品

  • 東山 魁夷(ひがしやま かいい)の「宵桜」「行く秋」「緑響く」 など
  • ゴッホの「糸杉と星の見える道」「ひまわり」 など
  • 藤田 嗣治(ふじた つぐはる)の「五人の裸婦」「朝の買い物」 など
  • オルセー美術館シリーズ「すみれのブーケをつけたベルト・モリゾ」(マネ)「サント=ヴィクトワール山」(セザンヌ) など

マイセンの作品

  • ゴンドラ、空飛ぶ絨毯、城と恋人達(以上、アラビアンナイトシリーズ)
  • 動物たちの演奏会
  • バイオリンを弾くウサギ(森の音楽隊)
  • ブドウ泥棒 など

セーヴルの作品

  • 聖家族像
  • 薔薇の貴婦人 など