油絵は絵の具を塗る、盛る、削るなど力強く重厚な表現ができる一方で、薄く溶かして柔らかく透明感のある表現もできるなど、幅広い表現ができる絵画です。
作家ごとに異なる個性的イマジネーションの世界を、油絵の持つ幅広い表現力を用いて絵画として結実できます。完成した油絵は耐久性に優れ、色あせすることもなく長く楽しむことができます。
長い歴史のある油絵について、骨董価値の高い作品やその特徴、歴史などについて紹介します。
油絵とは
油絵で使う絵の具などの画材について
油絵とは、水や油に溶けない性質を持った顔料の粉末を乾性油(空気に触れると乾燥しやすく、すぐに固まる性質の油)に混ぜて作られた絵の具を用いて、キャンバスと呼ばれる麻布に塗って描かれる絵画です。
油絵の技術・技法は14世紀後半頃生まれ、15世紀にヨーロッパで確立し、それ以来数百年にわたって多くの作家によって描かれ続け、有名な作品が数多く現代に残っています。
油絵用の絵の具は油でしか薄められませんでしたが、近年になって絵の具に界面活性剤を添加し、水で薄められる水溶性の油絵の具も利用できるようになって、水彩画のような効果のある絵も描けるようになり、表現の幅が広がっています。
油絵の特徴
油絵の特徴は、一見すると写真としか思えないような透明感のある写実的な絵画から、絵の具を力強く重ね塗りして重厚な絵画まで描ける表現力の幅、それを可能にするさまざまな技法が利用できることです。
他の絵画と異なり、色の鮮やかさや深みがあります。これによって作家の個性・感性が柔軟かつ多様にいかされて、奥の深い多彩な絵画が描かれます。
そして、描かれた油絵は、耐久性があり数百年を経過した現代においても、描かれた当時とあまり変わらない状態で鑑賞できることも大きな特徴です。
また、油絵は通常、木枠に麻布を貼ったキャンバスに描かれます。しかし、油絵用の絵の具は木の板や金属の板、ガラスなどにも描ける特徴もあります。
油絵にはこのような多様性や表現力の幅があることから、数百年も続いて描かれてきて、これからも描かれ続けるであろうと考えられます。
油絵の具による多彩な表現
油絵の具は、空気中の酸素と乾性油が反応して固まります。そのため、一度塗った色でも乾燥した後では、その上に重ね塗りしても下の色がにじむような心配、影響もなく描くことができます。
なお、完全に乾燥するには数日間程度を要するため、絵の具を微妙に混ぜることで複雑な色を出すことも、ぼかすこともできます。
また、乾燥が遅いため、一度キャンバスに塗った絵の具を何度でも削りとったり、塗り加えたりできます。
これにより、何層にも及ぶ絵の具の層を築けたり、多彩な色を表現したりして絵画表現にさまざまな効果を与えられます。
また、水彩画や水墨画のように筆を一気に運んで描く必要もなく、作家にとっては絵を描き直して納得できるまで修正ができ、より満足度の高い作品に仕上げられるという特徴があります。
油絵と他の絵画との表現上の違い
西洋で発展した油絵の西洋画と中国や日本で発達した大和絵、水墨画、浮世絵などの日本画とは画材の違いのほか、以下のような表現上の大きな違いがあります。
1.立体的表現と平面的表現
西洋画(油絵)は、立体的(3次元)・写実的に描きますが、日本画(大和絵や水墨画、浮世絵)は平面的(2次元)・漫画のように描きます。
2.透視図法と空気遠近法
西洋画の遠近法は視点を固定した科学的な透視図法によって、写真で撮影したかのように描かれますが、日本画は視点を固定せず近くを鮮明に描き、遠くを不明瞭に沈んだ色彩で描く「空気遠近法」で描かれます。
あるいは、近くにあるものは下に描き、遠くにあるものを上に描くことで遠近感を出しています。なお、室外の視点から室内を描くとき、屋根が省略されて描かれないという特徴もあります。
3.光、影の有無
西洋画は光と影を明確に正しく描きますが、日本画では描かれていません。
4.余白の活用の有無
西洋画には、余白を意識して制作された絵画はありませんが、日本画には例えば、花鳥風月が描かれた後ろの空間に、実際にあるはずの風景が描かれていない作品が多数あります。
余白が「間」として、時間的、空間的な意味を持つように意図され、単に無の空間ではない「間」として絵画に余韻や余情を与えています。
5.輪郭線の有無
西洋画には輪郭線が描かれず、日本画では輪郭線が描かれます。
本来の立体物、例えば顔には輪郭を示す線など存在しませんが、日本画では輪郭線が描かれます。
以上のような違いがあることから、西洋画にも抽象画や一部の例外的な作品もありますが、油絵の西洋画は目に見えるとおりに描くことで、絵画に写実性を追求する姿勢が強く表れています。そのため、光が当たっていれば光や影を忠実に描き、輪郭線などないものは描かず、科学的に立体的に見える透視図法で描かれています。
一方、日本画は写実に追っていないために、色調や表現を簡素にして空白を取り入れて、人間の感性に訴えかける姿勢が強く表れています。
優劣はつけられるものではなく、どちらかも絵画として優れた芸術性を有しています。
油絵の歴史
油絵の起源からルネッサンス時期まで
油絵は、14世紀後半頃、ヨーロッパのネーデルラント地方(現在のオランダ、ベルギー地域)で生まれ、この地方の画家であるファン・アイク兄弟によって15世紀に確立したとされています。
その後、油絵の技術、技法はイタリアへもたらされて、イタリアでさらに発展します。
14世紀頃から始まったイタリアのルネッサンス運動とともに、油絵はルネッサンス絵画として大きく開花します。この時期に、技術・技法的には光と影の明暗による立体感や質感の表現、透視図法が確立されます。一方、画材では現在でも利用されているキャンバスに油絵が描かれるようになります。
ルネッサンスの最盛期は、古代ギリシャ、ローマに並ぶ絵画を含む西洋美術の完成期として、「盛期ルネッサンス」と呼ばれています。
時期は15世紀末から16世紀初頭の約30年間で、この時期にはレオナルド・ダ・ヴィンチやミケランジェロが多数の優れた作品を残します。
ルネッサンス時期以降の18世紀まで
15世紀の後半になりますと、ルネッサンス運動は全ヨーロッパに波及し、各国でルネッサンスの影響を受けた芸術運動が展開され、「北方ルネッサンス美術」として開花します。
そして、ルネッサンス美術への反動や宗教対立などの影響を受けた「バロック美術」が生まれ、油絵もその影響を受けます。色彩が豊かで強い明暗がつけられて躍動感ある劇的な画面が好んで描かれます。
今度は、バロック美術に対する反動として「ロココ美術」が生まれます。ロココ美術の影響を受けた油絵は、主に優美なテーマが好んで取り上げられ軽い色彩で描かれています。
19世紀から20世紀まで
19世紀に入ると「新古典主義」「ロマン主義」「写実主義・自然主義」「印象派、ポスト印象派」「象徴主義」など、それぞれの前の芸術性を否定するような形で生まれたり、新たな表現方法を求めて生まれたりしていきます。
20世紀から現在
20世紀に入りますと、「パリ派」「キュビズム」「フォービスム(表現主義)」など西洋画を特徴付けていた目に見える写実性からは離れ、一点透視図法が無視された抽象的表現の作品が生まれ、現在に至っています。
骨董価値のある油絵の特徴・条件
油絵で骨董価値の高いものは、有名作家であることが最も大きなウェイトを占めます。
そのため、署名が入っていることが重要ですが、有名作家であっても署名のない作品もあり、署名がないから即価値がないとはいえません。
次に保存状態や歴史的価値、希少性などがあれば、さらに高い骨董価値がつきます。
また、作家別にそれぞれの作家の得意とするテーマや、人気のテーマが描かれた作品は高い骨董価値が同様につきます。長く活躍した作家であれば、制作時期によっても骨董価値が大きく変わることもあります。
まず、骨董価値を知りたいときは、作家の作品が網羅されたカタログ・レゾネ(美術全集)に収録されているのかどうかを確認することで、有名作家の作品であるのかが分かります。
また、掲載されていれば掲載されていない作品よりも、高い骨董価値があります。
有名な油絵
有名な油絵の作家名と、一部の作品名を時代順に紹介します。
ルネッサンス期の絵画
レオナルド・ダ・ヴィンチの作品
- 「モナリザ」
- 「聖アンナと聖母子」 など
ラファエロの作品
- 「小椅子の聖母」 など
北方ルネッサンス期の絵画
デューラーの作品
- 「自画像」 など
エル・グレコの作品
- 「オルガス伯の埋葬」 など
バロック様式の絵画
レンブラントの作品
- 「夜警(バニング・コック隊長率いる火縄銃組合の人々)」 など
フェルメールの作品
- 「真珠の耳飾の少女(青いターバンの少女)」
- 「牛乳を注ぐ女」 など
ロココ様式の絵画
フラゴナールの作品
- 「ブランコ」 など
フランソワ・ブーシェの作品
- 「水浴のディアナ」 など
新古典主義の絵画
ドミニク・アングルの作品
- 「グランド・オダリスク」 など
ブグローの作品
- 「ヴィーナスの誕生」 など
ロマン主義の絵画
ターナーの作品
- 「雨、蒸気、スピード グレート・ウエスタン鉄道」 など
ドラクロワの作品
- 「民衆を率いる自由の女神」 など
ゴヤの作品
- 「カルロス4世の家族」 など
写実主義・自然主義の絵画
ミレーの作品
- 「落穂拾い」
- 「晩鐘」など・コローの作品
- 「モルトフォンテーヌの思い出」 など
印象派の絵画
ゴッホの作品
- 「ひまわり」
- 「タンギー爺さん」 など
セザンヌの作品
- 「りんごとオレンジ」 など
ルノアールの作品
- 「ムーラン・ド・ラ・ギャレット」 など
ゴーギャンの作品
- 「われわれはどこから来たのか われわれは何者か われわれはどこへ行くのか」 など
モネの作品
- 「睡蓮」 など
マネの作品
- 「草上の昼食」 など
象徴主義の絵画
ロートレックの作品
- 「ムーラン・ルージュにて、ダンス」 など
ギュスターヴ・モローの作品
- 「踊るサロメ(刺青のサロメ)」 など
パリ派の絵画
ユトリロの作品
- 「カルボネルの家、トゥルネル河岸」 など
モディリアーニの作品
- 「髪をほどいた横たわる裸婦」 など
シャガールの作品
- 「私と村」 など
藤田 嗣治(ふじた つぐはる)の作品
- 「カフェにて」 など
キュビズムの絵画
ピカソの作品
- 「ゲルニカ」
- 「アヴィニョンの娘たち」 など
レジェの作品
- 「青衣の女」 など
フォービスム[表現主義]の絵画
エドヴァルド・ムンクの作品
- 「叫び」 など
アンリ・マティスの作品
- 「ダンス」 など