翡翠道具類

資産価値のある翡翠で作られた、芸術性の高い道具類

高価な宝石「翡翠」を使って作った道具類は、まさに豪華な道具といえます。道具類は原石としての翡翠に付加価値を与え、資産価値を高めてくれます。また持つものに特別な安心感を与えてくれる、不思議な石の効果を加味して作られたのが翡翠製の道具類です。

ここでは翡翠製道具類の中国産と日本産の歴史的な違い、道具の種類や特徴、価値ある翡翠製の道具類などさまざまな視点でご案内します。同時に翡翠製の道具類について、本物と偽物の違いもご紹介します。

資産価値のある翡翠と芸術性の高い道具類とは

道具類とは

希少価値のある宝石を「道具」にするには、それなりの理由がなくてはいいけません。翡翠を道具にするのは、その神秘な色合いや秘められたパワーを求めて当時の権力者たちが「より身近に置きたい」と考えたからです。
同時に優れた細工が施されることで芸術的価値が高まり、道具でありながらも資産価値の高い芸術品として重用されてきたのが、翡翠の道具類です。

中国では、清王朝末期のころ世界最大の翡翠鉱石の消費国となっています。
翡翠はさまざまな形に変わり、そのなかには芸術的な価値を持った道具類も多く作られています。そもそも中国では、翡翠は玉としてめでるだけでの宝石として扱っていましたが、彫刻技術の発達によってさまざまな形が生み出され、芸術品として支配階級以外の一般の人々にも愛蔵されてきました。

特に中国の文化や慣習によって作られた道具類は、一般庶民にとっても憧れの逸品、もしくは家宝として大事にされていきます。このような優れた品は、後年日本にも入ってきて、往時の人々に珍重されていきます。

たとえば香りを楽しむ「香炉」や高級茶葉を煎じる「茶器」など、身分の上下を問わず日本人の嗜好にも合う品として広まっていくことになります。また書に関する道具にも使われてきました。筆に墨を付ける「硯(すずり)」や筆を立てておく「筆筒(ひっとう)」、描きあげた書を掲げる掛け軸が風で揺れないようにとぶら下げるオモリの「風鎮(ふうちん)」などが一般的です。

ほかにも、いろいろな翡翠製の道具類はありますが、ここでは主に中国製と日本製についてご紹介します。

翡翠で作られた中国製と日本製の道具類

中国の加工技術は大変優れていることから、世界的に見ても最高峰の芸術作品が多く残されています。その中でも翡翠の加工技術は、希少価値のある鉱石を数段高める技巧が駆使されていて、現在も骨董として高い評価を受けています。

たとえば硯であれば、中国製のものが優れています。
硯は日中両国ともに文化的な芸術(書)をたしなむときに使う道具ですが、日本製と中国製とを比べるとそこには大きな開きがあります。

日本製の和硯(わけん)は、墨を擦る道具に特化したシンプルなわびさびの効いたデザインのものが多く、逆に中国製の唐硯(とうけん)は、材質の特性にあわせた格調高い芸術的価値のあるデザインが施されています。つまり中国製のものは実用性もさることながら、芸術性の高い品物が残されているわけです。

特に清朝時代前後の硯にはすばらしいデザインのものが多く、その芸術性の高さから骨董の価値の高さも認められています。
ただし中国ではジェダイトとネフライトの2種類の翡翠で作られているため、資産価値の高さから見るとジェダイトの品を選びたいものです。

当時の中国では、ジェダイトとネフライトに区別はなく同等に扱われていましたので、現在もネフライト製の硯が本翡翠(ジェダイト)として流通していることもあります。
なお、現在では鑑定を行えば区別することはできますが、軟質翡翠(ネフライト)の中にも彫刻などの、細工がすばらしい資産価値のあるものも存在しています。

資産価値のある翡翠と、芸術性の高い道具類の歴史概略

翡翠製の道具ができるまで

中国においても日本においても国家が形成される前から、翡翠は貴重な鉱石として扱われてきました。いわゆるエメラルドグリーンと呼ばれる神秘の輝きを持つ原石は、やがて成形されて装飾宝石として大事にされていきます。

しばらくしますと、支配階級だけではなく一般庶民にも広まっていきます。希少価値のある宝石として、またパワーストーンのような神秘の力を求めて、身の回りにと望んだ先人たちは、日常使う道具に変えて翡翠を手元に置くようになっていきます。

すでに別の素材で常用されている道具類がある中、さらに高級素材の翡翠を使うことで、翡翠の持つ神秘の力と希少な資産価値の鉱石が相まって、さらに細部に彫刻された芸術性豊かな作品は、希少な道具として羨望の愛蔵品となっていきます。

日本での道具類の発達について

日本では縄文時代より「翡翠は硬い石」として活用されていました。また当時から翡翠の持つ粘り強い独特な性質を理解していたからこそ、砥石として他の物質の研磨にも使われてきました。
当初は硬い鉱石として活用され、その後性質が分かってからは研磨にも使われ、やがて光り輝く宝石としてめでるようになります。
時代が進み彫刻の技術が備わったことで、翡翠は宝石に施された芸術品として、また道具としても活用されていきます。

翡翠が持つ独特な半透明の緑色に多くの人々が魅せられ、しかも「不思議な力が宿る」と信じられていきます。
やがて開運や邪気払いなど運気につながる宝石として、また誰もが身につける装飾品として流行しますが、弥生時代からは生活様式の変化にともなって、次第に翡翠を宝石として愛用する文化は消滅していきます。

一方で1300年代からさまざまな作品が作られてきた中国では、多くの芸術的な道具類が作られ現在も骨董として価値ある品が残っています。
当時の日本国内も唐製の希少品として翡翠の工芸品を輸入し、特に茶道や書道に関する道具類などは高価な愛蔵品として時の権力者や資産家に好まれていきます。

ここで注意しておきたいのは、当時の中国では翡翠の多くがネフライト(軟質翡翠)だったことです。
一見しただけで見分けることはできませんが、現在ではネフライトに鉱石としての価値はなく、その道具類は芸術性と年代による希少性で価値が判断することになります。

ただしジェダイト(本翡翠)を好んだ清朝末期の西太后の時代のものでしたら、資産価値のあるジェダイドを使ったすばらしい品が数多くありますので、目利きさえできれば市中からすばらしい翡翠道具を見つけることができるかもしれません。

骨董の価値がある翡翠で作られた、道具類の特徴とは

翡翠は、宝石としての美しさと希少な鉱石として、古くから貴人たちに愛されてきました。特に中国圏で発達した翡翠の加工技術はさまざまな製品を生み出し、芸術性の高い道具類まで作られるようになります。いまでも往時の価値ある翡翠製の道具類が、骨董の品として残されています。

骨董価値のある翡翠茶道具

もともと茶をたしなむ慣習は中国から興ったものですが、茶道として進化し発展したのは「わびさび」に見られるように、まさにお茶が日本独自の文化へと成長していったからでしょう。茶の作法が確立された戦国の世、信長・秀吉の時代から作法ともに道具に対するこだわりは盛んになります。

当然のごとく美しい翡翠の茶碗や茶道具がたくさん作られ、今も芸術的価値がある骨董の品として残されているものもあります。またそれ以降にもたくさんの翡翠製茶器が残されていますので、年代や所蔵状態によってその資産価値には大きな違いが出てくることになります。

なお、往時の中国製品にはジェダイトとネフライトが混合されていることが多いため、鉱石としての価値ともに骨董としての時代考証をしっかり確認しておく必要があります。

骨董価値があるそのほかの道具類

室内で香りを楽しむ「香」は、雅なたしなみとして古くからあった慣習です。単に匂いを楽しむだけではなく、貴い位の人は瞬時に原料名を言い当てるゲームとしても親しまれていたようです。その香をたくときの器、つまり香炉の中で最適なのが翡翠で作られたものだったようです。

そもそも香をたくのは消臭効果だけではなく、運気を呼び込み邪気を払う浄化の作用を求めているからです。そこに神秘の力を持つとされる翡翠を香炉にすれば、さらに作用は高まっていくと思われ、翡翠製の香炉は広く愛用されています。

日本製・中国製のどちらもありますが、清朝以降のものであれば中国製の香炉であってもジェダイトが使用された資産価値の高いものが多いとされています。
同時に中国製の道具で面白いものに「鼻煙壺(びえんこ)」があります。煙草の葉を粉にして吸い込み、鼻腔の粘膜からニコチンを吸収する高貴な嗜好品だったようです。

もともと鼻煙壺は、ヨーロッパで愛好されていた、鼻から煙草の粉を吸引するもので、中国にも持ち込まれると頭痛解消の良薬として珍重されたそうです。もちろん嗜好としても愛好されていて、その葉タバコの粉を入れる容器が注目されます。
現在残されている容器にはすばらしい細工がされたものが多く、その中のひとつに翡翠製のビン(鼻煙壺)もあったわけです。

日本国内で有名な翡翠製の道具類と、その意味について

世界各国に翡翠製の道具類が存在していますが、ここでは日本国内で有名な道具類にスポット当ててご紹介します。特に日本の慣習に沿った品や、和風文化のための道具類を箇条書きで並べていきます。

翡翠の道具類で真っ先に思いつくのは硯です。書をたしなむものにとっては墨や筆はもちろん、硯などの道具は、できるだけ良いものを使いたいものです。ただ翡翠の硯は実際に使用する道具というよりも、数あるコレクションの中で大事にしておきたい逸品として、所蔵していることが多いものです。ちなみに翡翠の硯は、さまざまな彫刻が施された芸術作品がたくさん残されています。

水差しと筆筒

硯以外にも書の道具類はあります。硯に水を入れる「水差し」は豪華な彫刻が施されていることが多く、まるで置物かと思うほどの美術的な要素が感じ取れる品が多いようです。一見しますと芸術的な作品ですが、硯としての実用的な側面も持ち合わせています。
また何本かの筆を立てておく筆筒(ひっとう)も、水差し同様に表面は細部にわたって彫刻が施され、内側は円筒状にくり抜かれた翡翠製の道具といえます。

茶器

翡翠製の急須や茶碗でお茶をいれますと、「まろやかになる」といわれています。特に蓋物(ふたもの)の茶碗は、色やデザインが魅惑の宝石そのものに見え、芸術的な彫刻が施された急須は「逸品の価値あり」と思わせるほど、ひとつひとつ違う龍や蛇などの縁起物を彫り込んで付加価値を増しています。

箸置きと酒杯

お茶に限らず古来よりの嗜好品といえばお酒があります。
翡翠の酒杯はおちょこタイプ(小サイズ)とぐい飲みタイプ(大サイズ)があり、色合いや全体的な重さ(削り具合)によってその価値は変わっていきます。
また肴をいただくときに必要な箸置きも、マニアがいるほどの価値ある道具類となります。

祭祀に使う実用具

仏教を信仰する地域としては、数珠(じゅず)・念珠(ねんじゅ)にも翡翠が使われています。
翡翠玉を連結させた数珠は、すべてが翡翠で作られている豪華なものと、親玉のみが翡翠でできているものとがあります。翡翠の道具を肌身離さず使うことで、翡翠が持つ不思議な力のご利益を期待できるのかもしれません。

風鎮

風鎮(ふうちん)とは、読んで字のごとく「風を鎮める」ために使う道具です。掛け軸の下軸の両端にぶら下げるオモリのことです。実際には室内の掛け軸が風に舞うことはないと思いますが、そのオモリを下げることで重厚感を増し、ひいてはお洒落なアクセントとなるわけです。当然のごとく珍しい石を使いたいもので、人気の風鎮の筆頭は翡翠といえます。

香炉

香炉は趣味が高じた嗜好の品です。当然ながら高価なものが求められ、必然的に素材が良いものにはすばらしい彫刻が施されることになります。ちなみに香炉に関しては、ロウカン(青竹のような真っ青な色)が最上級といわれています。

そのほかの翡翠道具類

一般的に印鑑はつげなどで作られますが、中には希少価値のある象牙を用いることもあります。でも企業や団体の角印などで立派な印といえば、翡翠印が使われています。
翡翠印で気を付けたいのは、ジェダイト(本翡翠)のものを印鑑にすることです。ネフライトで作った印鑑は外回りの円が欠けやすく、結果として運気が下がるともいわれています。