SIHH 2019 モンブランによる進化したクラシシズム
筆記具におけるモンブランの歴史と伝統はあまりにも大きく、モンブランの時計作りに大きなプレッシャーとなって、のしかかってくるものなのかも知れません。
しかし今のモンブランが繰り出してくる新作に、迷いが見えるプロダクトは皆無といえるでしょう。
広いプライスレンジをカバーする同社のウォッチコレクションの中でも、ミネルヴァの伝統を詰め込んだハイエンドラインのすばらしい出来栄えは、それだけで世界中の時計ファンを虜（とりこ）にする魅力にあふれているのです。
コレクションの整理と明確化が進むウォッチコレクション
筆記具メーカーとして世界屈指の名声を誇るモンブランは、伝統的な機械式クロノグラフからスマートウォッチに至るまで、そのバラエティーに富んだウォッチコレクションにおいても高い評価を得るに至りました。
その一方、ひたすらにバリエーションを広げていった結果として、似たようなモデルが違うコレクションに属していたりすることから混乱しがちであった、ヘリテイジクロノメトリーとヘリテイジスピリットの2つのコレクションが今回統合され、リファレンスの整理が実行されました。
これによってモンブランのウォッチコレクションはスター、タイムウォーカー、ヘリテイジ、1858という、個性のはっきりとした4本柱に整理され、コレクション全体がすっきりとして時計を選びやすくなりました。
そして2019年のSIHHにおいても、各コレクションの個性をさらに際立たせる様々な新作が加えられています。中でもヘリテイジや1858のコレクションに見られる、ミネルヴァとモンブランという歴史あるメゾンの融合による本格的機械式時計は、優れたコストパフォーマンスを維持しながらも、時計ファンを魅了するに十分な魅力を備えているといえるでしょう。
ここではそんな新作の中から、何点かを取り上げてみたいと思います。
1.タイムウォーカー マニュファクチュール クロノグラフ Ref.119942
タイムウォーカーならではのモダンなアラビア数字インデックスのデザインコードを受け継ぎながらも、ミッドセンチュリーのクロノグラフを思わせるシンプルで整理された意匠は、モノトーンにレッドの差し色というコントラストの高い配色とともに、多くの人々に好感を与えるものといえるでしょう。
またモータースポーツにインスパイアされて生まれ、ブラックセラミックのタキメーターベゼルを備えるこのクロノグラフは、IWCの最新鋭である69000系のクロノグラフムーブメントをモディファイして生まれたマニュファクチュールキャリバー、Cal.MB25.10を搭載。これだけのグレードの高さを誇りながらも税別定価で60万円という戦略的価格も魅力です。
2.ヘリテイジ パルソグラフ リミテッドエディション 100 Ref.119914
機械式クロノグラフの伝統を引き継ぎつつも、現代のウォッチメイキング技術で高度に磨き抜かれた力作。
搭載されるCal. MB M13.21は、センターのブリッジの形状やリセットハンマーや30分積算車の下に丸穴車や角穴車がむき出しになっている点など、往年のミネルヴァの意匠を再現しながらも、コンピューターによるシミュレーションを駆使した過不足ない太さを持つレバーや板バネ類等が描く、滑らかな曲線が幾重にも折り重なる風景は、時計に興味を持つ人々にとって他では得がたい喜びを与えてくれることでしょう。
一見1950年代風の外装も、単なる復刻などではない極めて凝った造りがさえわたります。
まず文字盤ですが、ピンクのサンバースト仕上げを基調にしながらアワーマーカーのトラックを荒れた仕上げとしてブルズアイ風に仕立てていますが、これはカラーや艶を微妙に変化させた昔のツートンダイヤルとは比較にならないほどに立体感が引き立っています。
その細かなフォント遣いからもヴィンテージを意識しているのは明確ですが、パルスメーターに使われたブルーのトーンはむしろ現代的であり、こういった所にも単なる懐古趣味に終わっていない点は、この時計ならではの個性といえるでしょう。
ケース径が40ミリ、かつベゼルを細く仕立てたことで文字盤外周にスペースが捻出され、文字盤上の最外周に配置されたパルスメーターのみならず、ミニッツトラックもインダイヤルに被ることなく表示されている点も、クロノグラフとして重要なポイントです。
税別340万円程度という価格は決して安いとはいえませんが、奥深い魅力に満ちたプロダクトであることに違いはないでしょう。
たった100本しか製造されないことが残念に感じられます。
本物のクラシックを知るメゾン、モンブラン
モンブランが誇る古典的名品、マイスターシュトゥックがそのスタイルをがらりと変えてしまうことは決して有り得ませんが、モンブランは筆記具の真のプロとして変化を恐れることなく、驚くべき完成度を誇る自らのペンのディテールに常に工夫を凝らしてきました。
そしてまだ歴史の浅いウォッチコレクションについても、ミネルヴァという強力なパートナーを得て以来、過去には在り得なかった「進化した古典」の追求を一気に加速しています。
今年の新作は特に古典的風合いの強いものばかりが並びましたが、腕時計の真のマイスターシュトゥックを模索する旅はまだ始まったばかりです。
現在ブランド時計の買取相場が上がっています
写真を撮って送るだけ、店舗に行く前に買取金額が無料で分かります。
