大理石彫刻・石像

希少性の高い石像と、大理石彫刻の骨董としての価値とは

石像や大理石彫刻は、伝統を重んじた技法を改良し芸術的な価値を高めていきます。天然石は単体でも骨董の価値はありますが、彫刻を施すことでさらに価値は高まります。

石像・大理石の種類と彫刻の技法、歴史的な背景などを交えて、国内外での骨董価値の評価基準と、簡単にできる骨董の大理石彫刻の見分け方をご紹介します。

天然石と大理石とその彫刻について

石像について

自然石を彫って作られた像を『石像』といいます。
自然石は大きく分けて3つあり、1つ目はマグマが冷えて固まった『火成岩』、2つ目が土や泥、火山灰などが堆積して固まった『堆積岩』、3つ目が火成岩・堆積岩が圧力や温度によって変化した『変成岩』です。
ちなみに大理石は変成岩の仲間ですが、大理石と同じ種類に見える御影石は火成岩の仲間になります。

自然石に彫刻したものを「石彫」とも呼び、代表的なものとしては神社の入口に鎮座する狛犬や道祖神などが知られています。作品のジャンルは宗教観を対象にしたものが多く、仏像や灯篭のような屋外の置物として活用されています。

また世界的な石像といえば、イースター島のモアイ像が有名です。顔の部分だけのもの、上半身だけのものなど1000体以上あり、一定の方向にむかって並んでいます。
一般的に知られている上半身タイプの長さは約3.5mですが、実は土中に埋められている全長を計測すると約12m、下半身を持つ巨大な像だったことがわかっています。

大理石について

一般的にいわれている「大理石」とは、鉱石としての大理石よりも広義に捉えられています。彫刻の場合も「広義の大理石」が使われていて、学術上の大理石である結晶質石灰岩以外に、家屋や装飾品の材料としても使われる「鍾乳石」や「ケーブオニックス」など、本来の大理石とは違うものも含まれます。

きれいな石としての特性をいかした大理石は、彫像などの美術品の材料として好まれています。また硬度のある石材としての、建築物の材料としても使われています。
大理石を使った建物としては、古代ギリシアの遺跡「パルテノン神殿」やローマ帝国の遺跡「コロッセオ」、インドの「タージマハル」などが有名です。
また彫像としては、ミケランジェロの作品が代表的なものといわれています

また一般的な建築材料としては、ビルの壁材や床材、テーブルやカウンターなどのインテリアにも使われています。
そのなかで、いわゆる高級な大理石といわれているのはイタリア産のもので、反対にリーズナブルなものはアジア産が有名です。
国内では岩手県から山口県まで広い範囲で採掘されていますし、本州以外では九州・四国からも産出しています。

ただし建築材やインテリア材となる大理石の多くは、一度粉砕して再度セメントなどを混ぜて固めた人造大理石やアクリル、ポリエステルなどの樹脂を混ぜた人工大理石に作り替えて、補強やサイズなど使い勝手の良いものにしてから使用されています。

なお、自然の大理石は柔らかく加工しやすい性質が特徴といわれていて、磨くと光沢が出て紋様が浮いてくる特性があります。そのため彫刻を施した装飾品など好まれていますが、宮殿や豪華な建築物では室内の壁材などの材料としても使われています。

ただし大理石の主たる成分は炭酸カルシウムですので、酸性の強い洗剤を使って磨くと光沢がなくなり、やがて表面が荒れてデコボコになる恐れがあります。また、酸性雨で濡れる屋外の壁や置物などには不向きといわれています。

大理石彫刻について

彫刻した大理石を「大理石彫刻」といいますが、必ずしも学術的な「大理石」のみを使っているわけではありません。鍾乳石など広義の大理石や、人造・人工で作られた大理石も使用されています。

もちろん、天然の大理石で作られた作品が価値の高いものとなりますが、庭園などの屋外に据え置く作品の場合には、加工された大理石が向いていることもあります。また変成岩である大理石は、硬度の観点から見ると柔らかい石ですので、彫刻をするには適した石といえますが、細かい彫刻を施すと欠けるというもろい性質があるため、作品によっては広義の大理石が活用されています。

なお彫刻物としては、立体的な三次元彫像だけではなく、文字や絵などを彫り込むペドグリフなどの二次元的な岩面彫刻など、幅広く使用されている石材です。

石像と大理石彫刻の歴史と概略について

石像の歴史について

自然石を用いる石像は、原始時代から作られていたようです。当初から偶像崇拝の対象物としてあがめていて、また単なる置物として身近に置かれていたようです。自然石を用いる石像は、原型に近い形のなかで彫刻されていきますが、やがて大胆な彫刻が施された造形美を求めるようになります。

また何らかのメッセージを彫り込むことで、神に対する祈祷や死者に対する哀悼を表すこともありました。また自領地の境界を示すため、つまり権勢を誇示するために石像を作って周知したこともあります。

そんな足跡を感じさせてくれる石像が、死者を弔ったのではないかと考えられるモアイ像や、権勢を誇示したのであろうスフィンクスです。どちらも今ではその真の目的を確かめることはできませんが、莫大な費用と人員を動員し、相当な期間をかけて作成した歴史的な石像といわれています。

大理石の歴史について

大理石は世界中で採掘されていますが、最初に大理石を大規模に活用したのはティグリス・ユーフラテス川水域で栄えたメソポタミア文明(紀元前4000年代)とされていて、往時の宮殿は大理石で造られていました。

このように大理石は建築材として多用されていきますが、同時に丸彫彫刻の材料としても好まれていきます。それは大理石特有の白色が理想とする皮膚色であり、冷たく柔らかい肌触りが神々しい人物像の材料に適していたからといわれています。

大理石を使った芸術作品はギリシア美術へと継承され、彫像美術の代表的な素材となっていきます。このように建築材料や芸術作品の材料として使用された大理石ですが、これまでの戦争や盗掘、風雨による劣化などの影響で、往時のまま現存しているものは数が少なくなっています。

そのなかで1886年インドに併合されたミャンマーには、今も莫大な大理石美術品が残されているそうです。当時のインドはイギリスの植民地であり、ミャンマーには第2次世界大戦終了までイギリス人が大邸宅を築き、その建物や庭園には世界最高峰と評価の高い白大理石のレア作品が今も残されていて、希少といわれる作品は世界各地の美術市場・骨董市場へと流出しています。

大理石彫刻・石像の歴史について

大理石がいつから使われていたかは、定かではありません。ギリシア神話に登場するピグマリオンは大理石の身体を持っていましたし、孫悟空(そんごくう)で有名なダナンの五行山は大理石寺院として有名です。

そもそも「大理石」という名称は、中国にあった「大理国」から産出される鉱石だったことから付けられていて、ギリシア語名ではキラキラ光る原石の様子を表すμ?ρμαρο(マルマロ)、英語名のMarble(マーブル)は石の色彩や紋様からつけられたものといわれています。

大理石が波及したのは、きれいな紋様と柔らかな白い色彩にあります。その美しさから建築物の材料として、また芸術作品の原材料として使われるのは必然のことだったのでしょう。世界各地の宮殿や寺院などで建築物や調度品、美術品の材料として使われたのは、削りやすい材質の特性にありました。そしてその特性をいかすことで、大理石彫刻は次第に発展していくことになります。

また石像もその起源は定かではありませんが、身近な材料としてどこでも使われていたはずです。でも加工しやすい比較的柔らかい石を使っていることが多く、屋外に置かれていたものは劣化が進み、現存しているものは少ないのが特徴となっています。

骨董の価値がある大理石彫刻・石像の特徴とは

骨董価値のある大理石彫刻

彫刻を施した大理石の骨董としては、人物や動物または偶像などを表現した像が有名です。ほかにも花瓶や香炉、または置き時計などの調度品なども人気の品となっています。大型の品としてはテーブルや椅子、暖炉のように家屋と一体になっているものもあります。

そもそも骨董の価値を見定めるときには、まず素材の確かさが重要となります。純然たる大理石、つまり人工・人造で作られていない天然の大理石が最も価値が認められていて、その色合いや紋様などの美しさが評価のポイントになります。

また産出地も評価を決めるうえで、重要なポイントになります。大理石はマグマが冷えた火成岩と土や火山灰が堆積した堆積岩が、温度や圧力で変化してできた変成岩なので、埋蔵されている地域によって各々違ったものが産出されるため、その産出地域によって評価も違うことになります。

そして何よりも彫刻物ですから、彫刻技量やデザインなどの芸術性は骨董の価値を図るうえで重要なポイントになります。また時代背景によっては、戦火を免れた希少性なども重要な判断材料となります。

そして最も重要なのが保存程度の良さです。基本的に鉱石は木材などから比べると朽ちる期間は長いですが、大理石の場合には「酸」や「熱」が加わると変化する特性があるため、作成時の状態に近いものほど高い評価を受けることになります。

骨董価値のある石像

骨董の価値がある石像は、宗教系の偶像である仏像やギリシア神などを彫り込んだものや、動物や想像上の生き物などが有名なところですが、評価を受ける骨董の前提条件は、まず保存程度の良いものがポイントになります。

自然石を彫った石像は、風雪などの気象条件によって制作当初の形から劣化していることが多く、たとえ室内で保存していたとしても経年の劣化が進みますと、角が丸くなって彫刻がぼやけていることがあります。そのため、骨董の価値を見るときには、原形の状態を保っていることが重要となります。

そして何よりも重要なのは、いつ誰が作ったかということです。著名な作家はもちろんのこと名の知れた僧坊など、骨董の価値を高めてくれる作者の限定は、すなわち希少価値の条件が整うことに通じて、骨董としての高い評価を受けることができます。

なお、いわゆる宝石に分類される自然石が使われている場合には、彫刻の価値とともに鉱石の価値が反映されますので、一般的な自然石と比べると飛躍的な価値がつくことになります。

骨董価値がある像で、気を付けるポイント

自然石を加工した骨董の価値を図る場合には、プロの目を通して制作年代が確定できる書類、つまり鑑定書が最も信用力を高めます。専門家の鑑定によって裏付けされた骨董は、それだけでも価値が高まりますが、信用度だけではなく制作のバックボーンとなる過程がつまびらかになることで、骨董市場のニーズは高まることになります。

もちろん鑑定書だけではなく、自分自身でも真贋について確かめたいものです。骨董と呼ばれる大理石は肌触りが柔らかで、触ってもザラつきはありません。仮に新しい年代で作られた大理石彫刻であれば、表面はわずかにザラつきが感じられ、肌に引っかかるような手触りとなります。

仮に人工的に表面処理をしてザラつきをなくしたとしても、すぐに見破ることができます。大理石の表面を斜めから見ますと、正面からではわからない細かな歪みが見られるのは骨董の品です。経年の品でも鑿(ノミ)で削った痕は歪んでいるように見えるもので、もしサンドペーパーなどで表面を擦るとその歪みが消えてしまい、最近の作とわかることになります。

あとは染めていないかを確かめることです。経年の色合いは、表面から浸み込んだように汚れが沈着しているように見えるのが自然です。染めて汚れの色合いを出している場合には表面だけが変化し、奥のほうは変わらずきれいなままですので、割と簡単に見つけられ、自分でもざっと真贋を確かめることはできます。

日本国内外で有名な石像と大理石彫刻について

海外の有名な石像について

世界で有名な石像といえば、南米チリの洋上に浮かぶイースター島にあるモアイ像です。人面を模した石像は、海に背を向けてかつての住居跡を囲むように立っています。島内にある凝灰岩で作られたその数は、1000体以上といわれています。

そして巨大な石像といえば、ピラミッドとともに有名なスフィンクス像です。砂漠のなかに埋もれていた巨大石像を発見し掘り起こしますが、全体像をあらわにしたところから劣化が始まり、現在では危機的な保存状態になっているといわれています。

またアジア圏では、中国の南東部に位置する湖南省に、世界遺産に登録されている始皇帝の兵馬俑(へいばよう)を超える石像が発見されています。2000年以上前の遺跡には全長30cmから1mほどの石像5000体が並び、往時の服装を通して生活様式までもが垣間見られる貴重な遺跡となっています。

国内で有名な石像について

日本では権力者が権勢の誇示や信仰によって、多くの石像や石仏を作らせています。当初は命じられて作る仏像でしたが、時代が進むと修験僧や民間信仰によって石仏や道祖神などが作られていきます。現存する石像の多くは江戸期に作られたもので、それ以前のものは風化したといわれています。

そのなかでもミステリアスな石像として有名なのが、発祥不明で謎の石像ともいわれている「飛鳥の石造物」です。孝徳天皇(第36代)の墓陵にあることから、聖徳太子の時代から大化の改新のころまでに作られたものと推測されますが、何のために作ったものなのかは今のところ不明です。

国宝に指定されている石仏としては、九州大分の「臼杵磨崖仏(うすきまがいぶつ/臼杵石仏(うすきせきぶつ)」が有名です。寺が開基したのは、前述の孝徳天皇の時代よりもさらに遡った用明天皇(第31代)のころと推測されていますが、正確な年代はわかっていません。

臼杵磨崖仏は、そのデザインから平安時代以降のものと考えられていますが、長年風雨にさらされたことで如来の仏頭が落ちた状態で見つかりました。のちに修復したことから「首がつながる」(リストラにならない)と別の意味で、人気の参拝スポットとなっています。

海外で有名な大理石像

マーブル模様の白色が象徴的な大理石は、理想の人物像や神話に登場する、実在しない人獣などが対象になっていることが多いのが特徴です。特にギリシア神話に登場する神々は、大理石彫刻で代表的な作品といえます。

ミケランジェロ作の「ダビデ」は、イタリア・フィレンツェのアカデミア美術館で所蔵されている大理石彫刻で、世界で最も有名な作品のひとつです。1501年に制作を開始し3年の歳月をかけて完成したダビデ像は、神が与えた創造物(人間)を再現した、当時の最高傑作といわれているものです。

もうひとつ、日本でも知らない人はいないといわれるほど有名なのが、「ミロのビーナス」です。ルーブル美術館に所蔵されていますが、もともとは1820年ギリシアのミロス島で農民によって発見された大理石彫刻で、流転して現在の美術館が保持しています。